転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします






「無事に手に入って良かったですね」


大量のダンボールは、何とか全て車に積むことが出来た。ふぅ、と息をついた私に、逸生さんは「急いで帰るぞ」と助手席に乗るよう促す。

そんな彼は、工場へ着くと真っ先に工場長の元へ向かい、深々と頭を下げた。きちんとお詫びの言葉を伝える彼の背中はやっぱり頼もしくて、いつもオフィスで動画ばかり見ているのが嘘のようで。

彼の真面目な姿を見る度に思うのは、この会社が彼にとって大切なんだろうなってこと。丁寧に仕事をこなす逸生さんは、いつも以上にかっこよく見えた。


「専務のお陰で助かりました。とても心強かったです。本当にありがとうございました」

「いや、むしろ紗良のお陰だろ。それに工場長も良い人で良かった」

「はい。さすがに急過ぎたので別の種類も混ざってしまいましたが、この数をこんなにも早く用意していただけるとは思いませんでした」


車に乗り込み、エンジンをかける逸生さんと会話をしていると、ふとミラーに映る自分と目が合った。

──こんな時くらい、素直に笑えたらいいのに。

いつもの癖で、無意識に封印してしまう。嬉しいことがあったはずなのに…今の私、かなり感じ悪い。

感情を顔に出す方法を忘れてしまったかのように、ミラーに映る私は“無”のままだ。


「これから帰るって小山に伝えてくれる?」

「あ、はい。承知しました」

「会社に着くまで油断出来ないからな」


安心運転で帰るぞ、と続けた逸生さんは、無愛想な私とは反対に屈託のない笑みを浮かべる。

この温度差にもどかしさを感じながら「お願いします」と返せば、逸生さんはゆっくりと車を発進させた。

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