あくまくんが愛してやまない。
いじけながら沢っちは看板を再度塗り始める。
わたしよりも丁寧な手つきをじっと見つめる。
視線に気づいた彼はくすぐったそうにしながら、わたしに言った。
「……俺はさ」
「……うん」
「阿久間みたいに完璧じゃねえし、かっこよくねえし。どこをとっても負けてる気がする」
じっとわたしを見据える彼は、いままででいちばん真剣だった。
「でも、保志を想ってる気持ちは、絶対にだれにも負けねえよ」
「……うん。ありがとう、沢っち」
「…………おうよ」
沢っちの気持ちには、答えられない。
わたしは恭平くんが好きだから。
でも、いまはそんなこと言えなかった。
こんなに直球に想いを伝えてくれる沢っちは、そんな言葉を望んでいないと思ったから。
……どうすれば、だれも傷つけずに済むんだろう。
そんなことを考えているわたしは、……きっと沢っちの優しさを拒むのが怖いんだ。