春色の屍 【完】



「申し訳ありません。ただいま満席で。
そちらのボードにお名前を書いて、お待ちいただけますか?
こちらメニューになりますので、お待ちになっているあいだご覧ください」

そうだろうな、と思った。

高校時代の友達がSNSで『テレビで紹介されたみたいで、一時間待った!』とぼやいていた。
テレビの影響力はすごい。
高校生の頃はたいして待たずに入れたのに。


名前を書き終え、外まで並べられた椅子の最後尾に座った。
切り株のような丸椅子は、疲れた身体にすぐに馴染んだ。

そよそよと、やわらかな風が首筋をなぞる。
重なった葉の隙間からこぼれてくるひかりが、やさしくてあたたかい。

こんなにあたたかくては眠ってしまいそうだ。
バッグからミントのタブレットを出して、ぼりぼりと嚙み砕く。
咥内が痺れだし、鼻からミントがすっと抜けていった。

今週は納品が重なって寝不足だった。
それでも、ここへ来たくて必死で仕上げた。

ミントをバッグへしまい、本を出す。
買ってから本棚でずっと眠っていた画集。
見よう、見よう、とは思っていても、ToDoだらけの日々のなかでは、それは置いてけぼりになっていた。
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