2ねんせいの夏。
『そもそも、蝉は七日間の命じゃないんだから。
土の中で何年も何年も、地上に出る時を待ってる。』

父が言う。

『何年も…』

貴が呟く。

『おまえが蝉なら、まだ土の中だよ。
土の中でどんだけ迷おうが、

どんだけ無駄な時を過ごそうが、

地上に生きて出られれば、

最後に一鳴きさえ出来れば、

それでいいと思うよ。』

『最後の一鳴き…』

『夢なんて皆が持ってるとは限らないし、
皆が叶えられるものでもない。

幸せだって人それぞれだし、
他の人の幸せがおまえの幸せとは限らない。
その逆だってある。

人生なんて皆違ってあたりまえ、
貴は貴、でいいんだよ。』



その日、父は父親だった。

家にあまり居なくても、

家族行事に遅れても、

たまに真剣で、

たまに良い事言って、

子供達に厳し過ぎず、

甘過ぎず、

ちょうどいいところで皆を見てる。

『やっぱり蝉採りに行くか?』

『行かねぇよ…』

たまにお茶目でも。
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