彫刻
「林さん、あなたのお父様の体験がなにか霊的なものがかかわっているんじゃないかって葉書に書いてありましたけど、この事件も、霊的なものを感じませんか?」

ふたりは獣道を戻りながら、事件の現場を見た感想を話し合った。

「はい、わたしが葉書にそう書いたのも、この事件に霊的なものを感じたからなんです。別に霊感が強いとかそういうんじゃないんですけど、事件のことをいろいろ調べていくうちに、だんだんそう思うようになったというか・・・」

「わたしも、こういう仕事ばっかりやってるせいか、なんか直感っていうか、ピンときちゃうんですよねぇ」

「しかし、彫刻刀を振り回す霊って、あんまり想像できないな」

林は枝を短く折って、振り回しながら言った。

「何の仕業かは別として、彫刻刀で目を繰り抜くのは可能じゃないですか?」

「え?黒川さん本気ですか?生きたままですよ、いくらなんでも抵抗されて無理なんじゃないですかねぇ」

「いや、被害者は目を繰り抜かれていたのに全く痛がってなかったんでしょう?例えば、神経が麻痺して自由を奪われていたとしたら?」

「なるほど、おかしくなったのは後じゃなくて、目を繰り抜かれる前には、もうおかしくなっていたっていうことですね」

「でも、一度に何人もがおかしくなるなんて・・・心霊体験にはよくある話ですけど」

「やっぱりそれが自然なんじゃないでしょうか?」

林の、超常現象のせいにするのが自然という言い方もおかしな話だが、黒川も賛成だった。どう考えても『化け物』の仕業としか思えない。
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