虹色の愛
お姫様
○キッチン
糸、片付けをしている
はじめ、顔を出す

はじめ「あれ?さくらは?」
糸「もうやる事ないから、休憩してもらってる」
はじめ「えーー、なんでよぉ」

糸、もくもくと片付けしている

はじめ「なぁ、さくらは俺たちの記憶もないんだよな?」
糸「うん」
はじめ「それ、本当に?」

糸、手を止めてはじめの方を向く

はじめ「俺ら自身じゃなくて、俺らとの記憶もか?」

〇3号棟・3階客室
さくら、鏡の前に座っている
翔太、鏡ごしにさくらを見ながら髪をさわる

さくら「翔太さん、美容師だったんですね」
翔太「今は美容師の仕事はほとんどしてないけどねー」
さくら「え?」
翔太「実はまた違う美容専門学校通ってるんだ。学び直してる最中でさ。」
さくら「すごいです。」
翔太「よし!できた!」

さくら、素敵な髪型になっている
さくら、鏡をまじまじと見る

さくら「すごい!可愛い!!でも…」(メガネ、邪魔だなぁ)

翔太、さくらのメガネを外す

翔太「僕もねメガネないさくらちゃんの方が好きだよ。
さくらちゃん、自信なくてメガネかけてるんじゃない?」

さくら、メガネを見ている

さくら「私、何をするにも臆病で何かにすがらないと不安になるんです。今ならメガネ。」

翔太、鏡越しにさくらをみている

さくら「でも、糸兄と遊んでた時、ずっと糸兄みたいになりたかったんです。ヒーローみたいに何でもできる、だから、今も変わらず憧れなんです。」

さくら、メガネをそっと置く

翔太「なるほどね。でも、さくらちゃんは臆病じゃないよ。きっと。」

部屋の扉が開く
わたる、あくびをしながら入ってくる
わたる、さくらに気づく

わたる「うわっ!!さ、さくら!おおお!とっても素敵だぞ!本当にお姫様みたいだ!!」

わたる、チラチラさくらを見ながらほめる

翔太「でしょー?さくらちゃんはお姫様なんだから」
さくら「お姫様なんて、そんな、やめてください。」

翔太、少し真面目な顔をする

翔太「(首を振る)さくらちゃんは本当にお姫様だよ」

さくら、真面目に言われて照れてしまう

さくら「あ、そういえば昔糸兄にも縛ってもらったことあったんです。その時は、母に可愛く縛ってもらったのが木に引っかかって崩れちゃって。」

* * *
さくら(4)、髪が崩れて泣いている
さくら、誰かに縛り治してもらい笑っている
* * *

さくら「懐かしいなぁ」
わたる「え…」

わたる、焦る
翔太、目を見開き驚いてる

わたる「あの、それ…」
翔太「そんなことがあったんだね。あ、さくらちゃんお仕事大丈夫?」
さくら「あ!そろそろ戻ります!髪、ありがとうございます!」

さくら、部屋を出ていく

わたる「今の話って」
翔太「うん、糸くんじゃないよ」

翔太、少し寂しい顔をする
さくらのメガネが置いてある

〇3号棟・キッチン
糸、片付けを終える

糸「さくらはあの時4歳。記憶なんてないよ」

糸、はじめの横を通りリビングルームに行く
はじめ、糸を追う

はじめ「いや、心当たりあるはずだ。今朝、さくらの夢の話。」
糸「あの時、お前いなかっただろ」
はじめ「リビングルームのドア越しで聞いたんだよ」

* * *
はじめ、リビングルームに入ろうとする
中から糸とさくらの話し声が聞こえる
* * *

糸、軽くため息をつく
糸、はじめの横を通りリビングルームへ移動する

〇リビングルーム
はじめ「さくらの夢の糸は糸じゃないだろ?」

糸、黙り込む

はじめ「あれは、涼だ。」

〇3階・客室
涼、机にある古びた救急箱を触る
涼、嬉しそうに笑う

〇リビングルーム
はじめ「あの時、涼は救命体験の帰りだったんだ」

〇(回想)神社階段下・道路・昼
涼(10)、救急箱を持って歩いている

涼「重い。こんなの俺いらないよ。返してこようかな…なんてな。」

〇神社
さくら(4)の泣き声が聞こえる
涼、階段を上りきり、さくらの元へ走る
さくら、足から血を流して泣いている

はじめ(10)「糸、おばさん呼んでこよ!」
糸(10)「え、あ、うん…」

涼、2人の後ろからさくらの状態を確認する
涼、急いで救急箱を開き治療する

糸「涼…お前、すごいな…」

さくら、大きな絆創膏を涼に貼ってもらい泣き止む

涼「よし、これで大丈夫。さっき救急の体感してきたから。」
はじめ「よかったなぁ!さくら!」

さくら、まじまじと涼を見る

さくら「すごいね!お医者さんみたい!ありがとう!!!」

さくら、笑顔で涼に言う
涼、思わず照れてしまう
(回想終わり)

〇リビングルーム
糸、はじめの方を向く

糸「そうだったな。俺じゃなかったな」

はじめ「あれがきっかけで、涼は医者を目指したんだよ。涼とさくらの大切な思い出。あれは糸じゃない、涼のことだってさくらに伝えてもいいんじゃないの?」

糸「伝えたら、さくらは正気じゃなくなるぞ。あの時みたいに」
はじめ「そんなの分からない…」
糸「いや!、ダメだ。ダメなんだよ。」

糸、手に力を入れ、泣きそうな顔をしている
はじめ、糸を見ている
さくら、リビングルームに入ってくる

さくら「糸兄、やることある?」

糸とはじめ、さくらを見つめてしまう
糸とはじめ、さくらが輝いて見える

糸「さ、さくら!えっと…夕飯まではやることないかな。でも、暇だよな…」
はじめ「じゃあ、俺とデートしよ!こんなに可愛くなっちゃって!」

はじめ、さくらに近寄り褒める

さくら「ありがとうございます。さっき、翔太さんにやってもらって、今日はメガネも外そうと思って…あ!!メガネ忘れてきちゃった!ちょっと取ってきます。」

さくら、リビングルームから出る

はじめ「はは。さくら可愛なってたな。」

糸とはじめ、黙り込む

はじめ「さっきの話は忘れて。糸の気持ちもなんとなく分かったから。でも、これだけは信じて。俺らはさくらを泣かせたりしない。あいつとの約束だから。」

糸「わかった。あの、ごめんな、ありがとう。」

糸、落ち込む
はじめ、糸の肩を組む

はじめ「気にすんな、頑張れよ。糸兄」

〇3階・客室
わたる、荷物を持っている
翔太、出かける支度をしている

わたる「さくらの話は翔太だよな?…」
翔太「そうだね。」

翔太、話半分で支度をはじめる

わたる「でも、さくらは糸だと思ってるぞ。なんか、その、おかしくないか?…」

翔太、しっかりわたるの方を向く

翔太「わたる、この話さくらちゃんに話しちゃダメだよ。また辛い思いするのはさくらちゃんなんだよ。」

わたる、翔太を心配する
翔太、優しい顔をする

翔太「それに、ひろくんとの約束でしょ?さくらは俺たちのお姫様だ、でしょ?ほら!武道場行こ!母さん、待ってるよ」

翔太、わたるの背中を、ポンポンと叩き部屋を出る
わたる、心配しつつ翔太を追いかける
机にさくらのメガネが置いてある
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