こわモテ男子と激あま婚!?
瀬戸先輩の用事に付き合ってきたら、なんと――。
「ほら、軸足動かすなって。フリーフットは前にやるなって何回も言ってるだろう」
「うう」
先輩が小学生の男の子にバスケを教える現場に居合わせることになってしまったのだ。
途中、お昼休憩を挟んだとはいえ、もうかれこれ数時間。
飽きずに二人は練習を続けていたのだった。
「高校生のお兄ちゃん、体力ありすぎるよ……」
小学生男子の名前はハジメ君というそうだ。
どうやら、公園でバスケの練習をしている瀬戸先輩に目をつけていて、朝方ランニングしているところ、思い切って声をかけたらしい。
「そうそう、ディフェンスが間合いを詰めてきたら、そっちの足を俺に向けて――ハジメ、だいぶ上手くなってきたな」
「やった、瀬戸のお兄ちゃんに褒められたや!!」
ハジメ君は大はしゃぎしていた。
瀬戸先輩とハジメ君を見ていたら、なんだか本当の兄弟みたいで、とっても微笑ましい。
「ねえ、瀬戸のお兄ちゃんみたいにすごい人には分からないかもしれないけれど……笑わないで聞いてくれる……?」
「ああ? なんだよ? 笑わないから言ってみろ」
言い方こそちょっと怖い感じの瀬戸先輩だけど、その場にしゃがんで、俯いているハジメ君と同じ目線になって話を聞き始めた。
「僕、落ちこぼれなんだ……」
「落ちこぼれ……?」
「うん。僕がいたら、チームの皆に迷惑をかけちゃうんだ」
どうやら、ハジメ君は数あわせで誘われたミニバスケのチームに所属しているみたい。
周りの人達は、才能や体格に恵まれていたりして、すごい選手ばっかりなんだって。
そんな中に混ざるハジメ君は、どれだけ練習を頑張ってみても、皆みたいな動きが出来るわけじゃないそう。
自分はチームの中で落ちこぼれていて、皆の足を引っ張っているんじゃないかって、最近はチームの練習に行くのがなんだか怖くなって嫌になってしまったらしい。
運動神経皆無の私からすれば、ハジメ君はすごく動けてるように見えるんだけど、バスケをやる人達の中では上手くない方なんだって、勝負の世界は厳しいんだなって思ったよ。
「皆は強いのに、僕のせいで負けてばっかりで……僕がいない方が良いと思うんだ」
ハジメ君は涙ぐんでいた。
すると――。
瀬戸先輩がすごく真面目な顔で話しはじめた。
「バスケじゃあ、皆が皆同じ役割をするわけじゃあない。完璧な天才に見えるやつにだって、苦手なことはあったりする。お前が何気なくやってることも、他のやつらからすれば苦手なこともある。だから、お前はお前の良さを探せば良い」
「僕の良さ……?」
「ああ。お前、朝から今の時間まで、ずっと俺と一緒に練習やってただろう?」
「うん。そうだけど、そんなの当たり前じゃないの?」
すると、瀬戸先輩が首を横に振った。
「当たり前じゃないさ」
「当たり前じゃあないの……?」
「ああ。お前のその諦めない最後までやり抜く力ってのは、試合のどんな局面でも役に立つ能力だ」
「僕の得意なところ……」
「それとな、もっと大事なことがある――」
そうして、瀬戸先輩が続けた。
「ボール持って色々したりなんてのは個人で出来るが、バスケってのはチームでやる競技だ。誰か一人でもかけたら成り立たない。いない方が良い選手なんて一人もいないんだ……それを……忘れるな」
ハジメ君の瞳が揺れ動いた。
「お前ぐらいの時期なら、色んな能力が伸びる時期だから、負荷かけるよりも、色んな技を真似して挑戦してみろよ! じゃあ、俺に教えられるのはここまでだ。ほら、お前の友達らが心配して待ってるぞ」
バスケットコートの向こうには、ハジメ君と同年代の男の子たちが立っていた。
それを見てハジメ君がはっとなる。
「瀬戸のお兄ちゃん! それと、彼女の百合お姉ちゃん」
突然、話を振られて、びっくりしてしまった。
「か、彼女!?」
「いや、こいつは別に彼女じゃなくて……」
そうして、ハジメ君がビックリすることを言いはじめた。
「僕達がバスケしているのを、黙って見守ってくれてた百合お姉ちゃんのことを、大事にしてあげてね。瀬戸のお兄ちゃん! それじゃあ、ありがとう!」
それだけ言い残すと、ハジメ少年は走り去っていった。
そうして、瀬戸先輩が私の方を振り向いた。
「ほら、加賀美百合。長い間付き合わせて悪かったな」
「いいえ」
「ありがとうな。ああ、もうちょっとだけ待ってもらえるか?」
「は、はい……!」