さよなら、真夏のメランコリー

四 焦燥感

九月を駆け抜け、十月も終わる頃。
夏の匂いはすっかり消え、秋へと移り変わりつつあった。


私はバイトにも慣れ、学校よりもずっと楽しんでいる。
だけど、あれだけ憂鬱だった学校も、前ほど嫌だとは思わない。


夏休み前に退部届を出したこと。
真菜がいつも一緒にいてくれること。
少しずつ少しずつ、時間が経ったこと。


そういう理由もあるけれど、一番は輝先輩のおかげ。
彼と重ねた日々が、私の傷をゆっくりと癒してくれつつあるのかもしれない。


輝先輩は、前にも増して受験勉強に励んでいる。
夏休みと同時にバイトを辞めたあとは、家庭教師の日を増やした。
週三日だった家庭教師の訪問が週五日になり、この間受けた模試の結果は結構よかったのだとか。


ただ、まだ志望校は決まっていないみたい。
学校でも家庭教師にも急かされて、昨日の電話で話した時には辟易している様子だった。


(先輩も、陸上で学校を選ぶつもりだったんだもん。困るよね)


彼の気持ちがわかるから、同情めいた感覚を抱いてしまう。


私だって早く進路を決めなければいけないけれど、輝先輩に比べれば私はまだ一年の猶予がある。
そう思うと、ずっと気はラクだった。

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