さよなら、真夏のメランコリー
「でも、けがしてしまった以上、手術とリハビリを受けるしかなかった。必死に痛みに耐えてリハビリに通って、何ヶ月もかけて少しずつトレーニングもして……。そうやって、ようやく足が元通りになりそうだった時、もう一回靭帯を断裂したんだ」

「え……?」

「今度はもう、致命的だと思ったよ」


輝先輩が眉を下げ、遠くを見つめる。
その横顔は、今もまだ当時の傷を鮮明に覚えていると言わんばかりだった。


「もう一回手術してリハビリをしたって、最初にけがした時みたいに走れる保障はない。なにより、仮にそれで治ったとしても、もう最後のインハイには間に合わない」


彼は、最初のリハビリに数ヶ月を要し、インターハイ予選には間に合わなかった。
そこへ二度目のけが。


もし完治したとしても、それは選手として一〇〇パーセント問題がない状態とは限らない。
だいたい、リハビリとは別にトレーニングもしなければいけないのに……。輝先輩が絶望するのは、当然のことだ。


「でも、俺は諦め切れなくてさ。もう一回手術してリハビリにも通って……。大学でまた陸上できるんじゃないかって、心のどこかで期待してたんだ」


結果は、これまでの彼を見ていれば聞くまでもない。
そもそも、前に『選手としてはもう走れない』と聞いていたのだから……。

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