さよなら、真夏のメランコリー
「大人はずるいよな」


ぽつりと呟かれた声に、思わず顔を上げる。
涙で濡れた私の顔を見た輝先輩は、眉を下げて泣きそうな表情で微笑んだ。


「散々練習させて、努力するように叱咤激励して……。努力の仕方は教えたくせに、誰も選手生命を取り戻す方法も立ち直り方も教えてくれないんだから……」

「……っ、うん……」


コーチも、顧問も、両親でさえも……誰ひとりとして、一番知りたいことを教えてくれなかった。


これまで私の道標だった人たちは、励まして慰めて同情はしてくれたけれど。選手として戻る方法だけは、一度も教えてくれなかった。


それが無理だと言うのなら、せめて立ち直り方だけでも教えてくれればよかったのに……。

『時間はかかっても、きっと笑える日が来るから』

両親は、無責任にもそう言っただけだった。


時間はかかっても、ってなに?
きっと笑える日が来る、っていつ?


遥か遠い未来の話なんてしてくれなくていい。
だって……私は、今どうすればいいのかわからないのに……。

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