さよなら、真夏のメランコリー
もともと、私は人の視線には慣れていた。
水泳の試合では多くの人の前で泳ぎ、上位に入賞するのが常だった。


地区大会で一位になった時には、全校集会で表彰されたこともある。
一度、地元情報が載った広報誌のインタビューも受けたことがある。


そういう日々の中では注目されるのは珍しくなく、注目されるのが得意なわけじゃなくても少しずつ慣れていった。


だけど……。

「人に見られてる気がして……」

選手生命を絶たれた今、周囲の視線はどことなく同情や好奇を孕んでいる。


そのせいで、すっかり注目されることが苦手になっていた。


人の目が怖い。
どんな風に見られているのか、どんなことを思われているのか……。
考えたくないのに悪いことばかりが脳裏に過って、余計に不安と恐怖心が増す。


ましてや、目の前にいる輝先輩も、陸上選手としての未来を絶たれた人。
彼は校内外で有名だったし、注目度を増していた。


「気にする必要はないけど、気になるよな」


共感してもらえたことにホッとする。

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