彼の素顔は甘くて危険すぎる
王子様現る⁉︎

夏の延長戦のような蒸し熱い9月の始業式。

都内屈指のセレブ高校とも言える私立の『白星学園』は政財界や著名人の子息や子女、現役のトップアスリートや芸能人などが通う一種のステータス校で、メディア対策は完璧と言われるほど。
その学園のクラス委員長を務める橘ひまりは、夏休みの課題を集める準備をするために少し早めに登校した。

朝8時とはいえ、まだまだ汗ばむ季節。
少しでもクラスメイトが過ごしやすいようにとエアコンのスイッチを入れ、室内の空気を入れ替える。
それから、自宅から持参した花を花瓶に生けた。
課題を集める用の箱を教卓の上に準備する。
『夏休みの課題は箱の中に入れて下さい』と黒板に記して。

8時半を過ぎると、続々と登校してくるクラスメイト。

「おはよ~」
「ひまちゃん、おはよぅ」
「はよぉ~~、ねぇ、SëIの新しい曲、聞いた?」
「聞いた聞いた、いいよねぇ、あの曲」
「絶対イケメンだよねぇ~」
「ミステリアスってのが良くない?」

突如現れた超大型アーティストの話題を口にする。

巷で人気急上昇中のアーティスト『SëI』。
年齢や出身も非公開で、これまでの経歴も不明。
芸能事務所『Rainbow Bridge』所属ということだけで、他は何一つ明かされていないの謎のシンガーソングライター。

ハスキーボイスだが甘く艶めいた声質で、骨太のハードロックからアコースティックの心揺さぶるバラードまで歌い上げる。
更にはラップやボイスパーカッション、アカペラまでこなし、極めつけは多様な楽器も演奏するという音楽のために生まれて来たような天才的な逸材。
この夏突如現れた彼は、音楽業界を震撼させている。

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