彼の素顔は甘くて危険すぎる

ひまりの両親は共に小児科医で、よくテレビでコメンテーターを務めるほどの知名度がある上、その人柄から都内では人気の小児科医院を経営している。

とはいえ、ひまり自身はそれほど勉強は得意ではない。
成績で言えば、中の上。
どこにでもいるような至って普通の女子高生だ。
他にクラス委員をしてくれる人がいないということもあり、入学以来押し付けられるように学級委員をしている。

「SHR始めるぞ~」

8時45分になり、担任の斉藤(すすむ)が姿を現した。

「転校生を紹介するな。入って…」

担任の声掛けで教室に入って来たのは、男子生徒。
髪は少し長めの無造作ヘア?いや、ただのボサボサ頭のような……。
身長はかなり高めだけど猫背で、長い前髪が黒縁眼鏡にかかっていて、更にマスクまでしているから表情が窺えない。

「アメリカのロサンゼルスから来た、不破(ふわ)(ひじり)君だ。日本の生活に不慣れだから、皆んな優しく接してくれよ?……いいな」
「ゴホッゴホッ……」

クラスメイトの視線が一斉に彼に集中すると、彼は緊張からなのか咳き込んだ。
そして、軽く会釈したが、無言のまま。
見た目が冴えない感じで、皆も興味が無さそうだ。

この学校に通う子達はナルシスト気質の人が殆どで、『注目を浴びたい』と誰しもが思ってるほど。
だから、パッとしないタイプの子にはあまり興味が湧かないらしい。

「席は……橘の隣が空いてるから、あそこに座って」
「………」

彼は無言で頷いた。

「橘、学級委員だから不破の世話を頼むな。あとで校舎を案内しといてくれ」
「………はい」

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