彼の素顔は甘くて危険すぎる

「カッコよすぎっ」
「だろ?」

俺の気持ちは伝わったようだ。
やっと笑顔になった。
泣き顔もそれはそれで可愛いけど、やっぱり笑顔の方が可愛い。

「他にもある」
「え?」
「こっち来て?」

彼女の手を掴んでキッチンへと連れて行く。

「じゃーんっ」
「……えっ」

毎日通う彼女のために、彼女用の食器類を用意した。
もちろん、さっきココアを入れたカップも同じシリーズのもの。

「まだある」
「え?」
「こっち来て」

繋いだままの手を引き、ブースの中に連れて行く。

「どう?」
「えっ、これ全部用意したの?」
「ん」
「結構高いのに……」
「稼いでるから心配要らない」
「……もうっ」

ブースの中で、いつも彼女が座る場所に画材道具を一通り用意した。
いつも彼女が使っている絵具や鉛筆とかクロッキー帳、イーゼルに至るまであらゆる物を。

「感動した?」
「うん」
「日頃のお礼だから」
「お礼して貰うほど、何もしてないのに……」
「してんじゃん。毎日ご飯作ってくれてんじゃん」
「それは、……私がしたいからで」

可愛いこと言ってくれんじゃん。
したくてしてるだなんて、男冥利に尽きるってもんだろ。

「初回出荷枚数って幾つくらい?」
「分かんないけど、数十万くらい?」
「やっぱりそうだよね」
「それが、どうかしたのか?」
「30万枚だとして、30万分の11枚?それを考えたら、これは数百万分の一くらいの確立だよね?」
「……そうなるのか?分かんねぇけど」

ひまりは右手薬指に着けた指輪を翳して嬉しそうに微笑んだ。
その手に自分の手を絡ませ、もう片方の手は彼女の後頭部を支えて、ブース内の壁に張り付ける。

「お父さんに何か言われたら、ちゃんと挨拶に行くから、……俺」
「……へ?」

挨拶って、………何の?

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