彼の素顔は甘くて危険すぎる
嘘は脅しよりも罪が重い?!

(不破視点)

成瀬 剣、許せねぇ。
俺の許可なく、ひまりに触れるとかありえねぇってのに、壁ドン?
マジで今すぐ半殺しにしたい。

スマホを持つ手の震えが止まらねぇ。

スマホで音声自動変換アプリを立ち上げる。

「普段使ってない階なんて、立ち入り禁止に制限したらいいのに…」

如何にも教職員が巡回してる風を装う。
しかも、足音をわざと立てて近づいてるように見せかける。
そして、着信音設定から無機質な着信音を選択して音を響かせ、近くにいると思わせる。

すると、「今日はこれで終わりな」という声と共に成瀬は反対の階段の方へと駆けて行った。

俺はひまりに気付かれないように隣の空き教室に隠れて様子を窺っていると、暫くして辺りを気にしながら荷物を持った彼女が静かに下の階へと下りて行くのが見えた。

そんな彼女に気付かれないように後を追う。

こんな生活を半月以上もしていたかと思うと、今すぐ駆け寄って抱き締めたい衝動に駆られる。
それを必死に堪えて……。

**

彼女が無事に自宅に入ったのを見届け、帰宅の途につく。

自分の知らない所で不必要な圧力が掛けられていたことへの怒り。
それと、大事な彼女を苦しめたという事実と何もしてやれなかったことへの罪悪感。

感情を制御する機能が故障してしまいそうなほど、溢れ出す彼女への想い。

俺に対する彼女の愛情の深さを知ってしまった以上、倍いや十倍くらいにして返さねば。

不破はスマホを立ち上げ、先ほど撮影した動画を添付してメールを送る。
その表情は、黒豹を彷彿とさせるような鋭い眼つきで……。

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