麻衣ロード、そのイカレた軌跡➍/赤き牙への狂おしき刃
その2
夏美



「…だから現状認識の前提で、そもそも世代間には相違が生じてる。これは不思議なことではないですよ。そう思います。ただ、現場のトップを担う私たちからすれば、リアルな状況を眼の前にしていれば、リアルに対処せざるを得ません」

私はふと、荒子といづみの様子を覗った

荒子は腕組みで口は真一文字、眉間にはペンで描いたような太いしわが数本だ

一方、いづみはやや俯いてるが、これもまた厳しい表情してる

いづみは議会でいえば野党のヤジ将軍、切り込み隊長だった

要は攻め手としてのパワーはある

逆に守勢では弱いタイプと見ていた

だから今度の立場は、彼女にはどうかなという気もしていたんだけど…

彼女、不得手なことに対しても果敢な面があるみたい


...


「…従って、先ほど由美子先輩がおっしゃった、ドッグスへの許容の姿勢は、私たちにとっては受け入れ難いんです。先輩方には、そういった我々執行部の胸の内に理解を示していただけるか、その辺を確認させてもらいたいんです…」

鷹美の言葉はシビアだったが、先輩への気遣いが伝わってくるよ

確かに鷹美の言う通りよね

無論、ここにいる全員、ドッグスの”その噂”に知らんぷりするつもりは毛頭ない

おそらく皆、この後のドッグスへの”吟味”で切り口をと踏まえてたと思う

私も”この件”は聞きかじりの範疇だったし、私からあえてここでは…、という考えだった

しかし、”立場”ある者の切迫感というのは、そういうものじゃない

私にはよくわかるよ…


...



鷹美がイスに腰を下ろしたあと、少し間があった

そして、甲斐先輩がニコッとっして口を開いた

「鷹美、今の話、100%異論ないわ。現執行部の信ずるところ、それに従って。やっぱり、私たちが一線を引くって決断、機を得ていたわね、土佐原さん…」

「ああ、そう言うことだ、由美ちゃん。で、一応確認だが、荒子も今の鷹美の考え、同意してるんだな?」

「はい。ウチら3人、その認識で一致しています」

荒子は躊躇せず、きっぱりと言い切った

「よし、それなら我々はこの後の連中に対する判断、現執行部に白紙委任だ。ドッグスに対しては、厳しい姿勢で臨むことにも異議はない。ただ、慎重には願いたいな…」

荒子は大きく頷いてから「はい」とだけ返事をした

他の新執行部2人も、小刻みに何度か頷いてる

うん、いい形だ…

この3人がスタートから、ここまで歩調を合わせてくれてるなんて…

嬉しい誤算とはこのことだよ

これで、本郷に対する包囲網も外郭が浮かんできたわ…




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