魔法のいらないシンデレラ 3
(ほんと、あの時の事は、思い出しただけで背筋がヒヤッとするわ)

すみれと一緒にスケッチブックに向かいながら、小雪は苦笑いする。

(だいたい、そういう事なら総支配人の筋からお話があるのが普通じゃない?瑠璃さんったら、一般のお客様と同じようにいらっしゃるんだもん)

事実を知った後、気付かずに申し訳ありませんでした!と瑠璃に頭を下げると、え?と瑠璃は目をパチクリさせていたっけ。

(今思えば、とっても瑠璃さんらしい)

小雪はふふっと思わず笑みを洩らしたが、すぐにまた真顔に戻る。

(だからそうよ。さっきのあの男の人も、瑠璃さんが総支配人夫人ってことを知らないんだわ。スタッフの人みたいだけど、ホテルの制服じゃないから、取引先とか出入りの業者さんなのよ、きっと。それで馴れ馴れしく瑠璃ちゃんなんて呼んでて。はっ!もしや本気で瑠璃さんに言い寄ろうとしてたりして?)

そんな、そんな事、絶対にだめ!

小雪が頭をブンブン振っていると、すみれがふと顔を上げる。

「こゆせんせい?どうしたの?」
「す、すみれちゃん。何もないよ、大丈夫だからね!」

思わずすみれを抱きしめる。

(そうよ、そんな事あってはならない。こんなに可愛いすみれちゃんの家庭を壊すような事は、私が絶対に許さないんだから!)

小雪は、りょうお兄ちゃんだよーとヘラヘラしていた山下の顔を思い出し、ギュッと拳を握りしめた。
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