魔法のいらないシンデレラ 3
第四章 家族
「ただいまー」

玄関のドアが開く音に続いて、一生の声が聞こえてきた。

「あっ、とうさまだ!」

パジャマ姿で絵を描いていたすみれは、ダイニングテーブルの椅子からトンと降りると、一目散に玄関に向かう。

「とうさま!おかえりなさい!」

満面の笑みで飛びついてくるすみれを抱きしめ、一生の顔は一気にふやける。

「すみれ、ただいま!」

父と娘の熱い抱擁に若干苦笑いしながら、瑠璃も、お帰りなさいと声をかけて鞄を受け取る。

「ただいま、瑠璃」

おでこにキスをしてから、一生は瑠璃にも優しく微笑む。

仕事の疲れなど、もう全く感じない。

一生はすみれを抱き上げ、飛行機のように横向きに抱えると、ブーンとスピードを出しながら部屋に入った。

キャッキャッと声を上げて喜ぶすみれに、しばらく部屋中を飛行機ごっこしてから、ようやく一生はすみれを下ろした。

ふう、とダイニングの椅子に座ると、お疲れ様です、と瑠璃が笑って食事を並べてくれる。

「とうさま、これみて!すみれのおはな」

小さな手に握られたスケッチブックを、一生はどれどれ?と覗き込む。

「これ、すみれが描いたの?可愛く描けてるね!」
「うん!こゆせんせいが、とうさまにもみせてあげてねって」
「そうかー、ありがとう。すみれと同じ名前のお花だね。上手に描けてるね」

一生が頭をなでると、すみれは得意げに笑ってみせた。

「さあ、すみれ。そろそろ寝る時間よ。お父様にお休みなさいしてね」

瑠璃が声をかけると、すみれは、はーい!と返事をする。

「とうさま、おやすみなさい」
「お休み、すみれ」

そう言っておでこにキスすると、すみれはニッコリ笑ってから瑠璃と手を繋いでベッドルームへと向かった。
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