魔法のいらないシンデレラ 3
「お帰りなさーい!」

マンションの玄関を開けた瞬間、小雪が飛びついて来て、山下は思わず後ずさった。

隣の部屋からゴミ袋を持って出て来た奥さんと目が合い、あらあら、ご馳走様と笑われる。

「ど、どうも…」

会釈をすると、山下は急いで玄関に入ってドアを閉める。

「小雪…。頼むからせめてドアが閉まってからにしてくれ。ほら、そこから下りて来ないでいいから」

えー?と口を尖らせながら、小雪は上り框に戻って両手を広げる。

「ここでいいんでしょ?ほらほら」

満面の笑みで、広げた両手をパタパタさせる。

山下は仕方なく、ジワジワと近付いた。

ギリギリ手が届く所まで来ると、小雪はつま先立ちで山下に抱きついた。

「稜さん、お帰りなさーい!」
「ただいま、小雪」

抱きしめて頬にキスをする。

「ちゃんと留守番してたよ」
「そうか、偉い偉い」

なんだか俺が保育士みたいだな、と、小雪の頭をなでながら山下はふっと笑った。
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