うそつきな唇に、キス
Liar / エンカウント
ꄗ
─────空から、雫が降り注いでいた。
息が荒くなっている。体も妙に熱っているような感覚があった。
それでも、決して歩みは止めない。
どれだけ遅かろうと。どれだけ無意味と嘲笑されようと、立ち止まるわけにはいかなかった。
ぴちゃぴちゃ、ばちゃ。
足元の大きな水溜まりに気づかず、足を取られてすっ転ぶ。
裸足ということもあったのだろう。薄くすでに湿っていた淡い水色の病衣のようなものも、言うまでもなくひどく悲惨な状態にある。
空から滴り落ちる雫がアスファルトに跳ねて、すでに溜まっていたもののなかにぴちゃんと落ちた。やがてはそれも水蒸気となり、宙に消えていくのだろう。
……ああ。わたしも、あの雫のように、消えてしまえたら、なんて。
人の形や色が闇に溶けて覆われる中、水が跳ねる音と、雑踏、それに走行音しか聞こえていなかったその場所で。
ひとつ、異質な声が落ちた。
「────おい。アレはなんだ?」
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