うそつきな唇に、キス
そう、わたしにしては割と常識的なことを言ったつもり、だったのだけれど。
睿霸はまるで、わたしの言ったことがあり得ないことだとでも言いたげに、目を見開いた。
「……え、わたしまた何かおかしなこと言いました?」
「……………おかしなイよ、」
「や、でも、」
「オかしくない、……なんにも、えるちゃんはおかしないんよ」
けど、さっきの睿霸の反応から見るに、わたしが変なことを言ったと思うのに。
睿霸があまりに、……あまりにわたしが見たことない顔でわらうから、何も言えなくなってしまった。
……へんなひと。
これ以上追及できるわけもなく、仕方なくその前の話に足を戻した。
「じゃあ、さっき固まってたのはどうしてですか?わたし、睿霸の要望通りに言えたと思ったんですけど」
「あー、あれはナあ、」
睿霸はさっきの形容し難い顔から一変して、ひっそりと夜に紛れさせるように苦笑いを落とす。
「初めてえるちゃんのド低音かつド迫力な声をあの言葉で聞いてシもうて、ちょいとビビっただけやよ」
「睿霸が、ですか……?」
「……僕にだって怖いことくらいあるデ」