恋の仕方、忘れました



お姉ちゃんと一緒に寝室から出てきた人物を見て、開いた口が塞がらなかった。

それは、その“新しい彼氏”も同じだったようで、私を視界に捉えた瞬間、全く同じような反応を示した。


そんな私達に気付きもしないお姉ちゃんは、笑顔で彼氏を紹介してくれた。




「この人が新しい彼氏のけんちゃん。本名は井上健さんです」




すっごく優しいんだよーと続けるお姉ちゃんは、まだ私達の異変には気付いていないようだ。
この時、営業マンでよかったと心から思った。顔に出ないタイプは、こういう時助かる。

けれど私の頭の中は絶望感で半端ない。どうかソックリさんであって欲しいという私の願いは一瞬で打ち砕かれたのだ。

目の前のイノケンさんは、引き攣った笑顔で口を開いた。



「ハジメマシテー。井上健で、イノケンデース」



物凄い棒読みで、前回と同じような自己紹介する彼は、初めましてをわざとらしく強調した。話を合わせろってことなんだろうけど、そんなこと言われなくたってそうしますとも。

だってさすがに、10日程前にナンパしてきた人だなんて、口が裂けても言えない。
またこうしてお姉ちゃんに秘密にすることが出来てしまったことに、胸が痛んだ。

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