恋の仕方、忘れました

1、2ヶ月前の私は、恋どころか男の人の体温というものを知らなかった。

好きという感覚も分からなければ、誰かが横にいてくれることの安心感さえも知らなかった。

一生ひとりでも大丈夫だなんて、つい最近までそう思っていた気がするのに、今ではもうその時の自分に戻れると思えない。




私の世界を変えてくれたのは、他の誰でもなく一条主任だ。

















ずっと寝心地悪いと思っていた腕枕は、実際寝心地が良いかと言われたら分からないけれど、どの枕よりも安心感はあると思う。


主任はこういうのしてくれない人だと思ってたけど、私が擦り寄ると何も言わずその腕を貸してくれた。


主任の体温をダイレクトに感じながら余韻に浸っていると、主任は色気の含んだ低い声で「成海」と、私の名前を呼ぶ。



「はい」


「一応確認だけど、この歳から付き合うってどういうことか分かってる?」


「……」



唐突な質問に、すぐ答えられなかった。

どういうことというのは、どういうことなのだろう?




主任の顔を見上げると、目を細める彼と視線が絡む。

普段なかなか見ることが出来ない甘い視線に、胸がどきりと鳴った。



「結婚、意識しとけよ」



















恋の仕方は分かったけれど、
どうやらここがゴールじゃなくて、まだ始まったばかりみたい。

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