恋の仕方、忘れました
暫くそうしている内に、身体に力が入らなくなって、ぐったりと主任に身体を預けていた。

私の短い息と、時計の音が交差する。

もっと触ってほしいという気持ちと、これ以上ここではしたくないっていう気持ちが喧嘩する。


あんなに寂しいと心が主任を欲していたのに、あっという間に主任でいっぱいになるんだから凄い。

やっぱり私を満たしてくれるのは、彼しかいない。




「一緒に帰る?」



さっき断ったはずなのに、主任は手を動かしたまま耳元で尋ねてくる。



「……まだ、仕事……」



ふわふわと襲ってくる快感に耐えながら小さく言葉を紡ぐと、主任はふいに手を止めた。



「仕事?」

「……仕事です」

「何の仕事?」

「え?」

「パソコン、デスクトップの画面だけど。お前何の作業してたの」

「あ」



失敗した。これじゃ仕事してないのバレバレだ。

そうです。ずっと主任の顔を見ていたから、何も手を動かしていませんでした。

主任と同じ空間にいられたらそれだけで良かったんです。本当にそれだけだったんです。



「……え、と」

「仕事、終わってんの?」

「……はい」

「何で嘘ついた?」



どうしよう、尋問みたい。

その手はまだそこに触れているのにぴたりと止まったままで、主任の射抜くような視線に目を逸らせない。

甘いようで、そうでもない雰囲気に変わって、冷や汗がこめかみを伝った。

< 130 / 188 >

この作品をシェア

pagetop