恋の仕方、忘れました


「今日ね、取引先で綺麗になったねって言われたんですよ」

「……ふうん」

「彼氏出来たの?って」

「……」

「一応否定したんですけどね」

「否定したのかよ」

「だって、もし何かの拍子に会社の人にバレたら面倒じゃないですか。さすがに相手が主任だなんて思わないかもしれないけど」

「……あ、そう」

「でも嬉しかったな。恋をすると綺麗になるって本当なんですね。これも主任のお陰です」



午後の給湯室。

たまたま二人きりになった、省スペースの一室。

午前中にあった出来事を、コソコソと主任に伝える私。



「最近は前より寂しさもなくなりました」

「たまに来るようになったもんな」

「はい。合鍵も頂いたので、いつでも主任に会いに行けて嬉しいです」



数週間前、思っていることはちゃんと伝えるように言われた私は、数日ごとにお部屋に行って、主任の負担にならない程度に寂しさを埋めてもらうようになった。

やっぱり仕事が忙しそうな彼だけど、数日前、私に会うと元気が出るって言ってくれたから、たまに会ってお互い“充電”している。


だからなのか、最近は不安も心配もなく、私達の仲はすこぶる順調だ。


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