恋の仕方、忘れました


「成海」


すると、私のすぐ後ろにやってきた彼は、耳元で私の名前を呼んで、後ろからそっと抱きしめる。


「もっと早くこうしておけば良かったな」

「……」


私のお腹に回していた手が、私の右手を掴む。

そしてその手のひらに、主任が何かをそっと置いた。


「これ、持っといて」

「え、いいんですか?」

「その代わり、もうあんま溜め込まないこと」


自分の手のひらに乗っているある物を見て、驚きと感動のあまり数秒フリーズした。
そのある物とは、主任の部屋の合鍵だった。


「恐れ多くて使えないかもしれないです」

「じゃあいらない?」

「いえ、お守りとして持っておきます」


主任は呆れたように、ふっと笑みを零すと私の身体から離れていく。

それを追うように振り返ると「それより、早くこっち来て」と、主任は私を寝室に誘導した。


え、もうしちゃうの?
シャワーも浴びてないのに?


内心そんなことを考えながらも、私も早く主任に触れたくて、大人しく彼の後ろをついて行く。

ベッドの縁に私を座らせ、腰を折った彼は一度触れるだけのキスを落とす。

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