恋の仕方、忘れました
「他に我慢してることない?」

「……ないですよ」

「言うなら今のうちだぞ」

「……本当にないです」

「ふうん。でも俺はあるよ」

「え、」



まさかの発言に、目を見開く。

主任は私に不満がある……いや、ひとつくらいあって当然なんだけど、こうして改たまって言われることってあまりないから、思わず身構えてしまう。



「お前は聞き分けが良すぎる」

「……」

「俺、客じゃないから」

「……」

「仕事のこと理解してくれてるのは助かる。けど、ちょっとくらい甘えればいいのにって思ってる」



私は主任の邪魔にはなりたくなかった。
私も仕事ばかりしてきた人間だから、主任はきっとなによりも仕事が最優先なのだと思い込んでいたから、忙しい彼に我儘なんて言えるはずなかった。

けれど、どうやらそれがダメだったらしい。



「分かってると思うけど、俺は言葉足らずだから、そんな自分から会いたいなんか言えない」

「……」

「寂しいとか言うキャラでもない」

「……確かに」

「だろ?だからお前から言ってほしい」

「……主任って意外に我儘なんですね」

「お前の前だけな」



“お前の前だけ”

そうやってさり気なく私を喜ばせるんだから、この人は卑怯だ。

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