恋の仕方、忘れました



主任が連れて来てくれたのは意外にもムードもクソもない大衆居酒屋だった。

もっと高級なフレンチとかフルコースが出てくるような店だと思っていたから、ここに来る道中頭の中でひたすらテーブルマナーを復習していたのに。
まぁ時間も時間だし、こういう店の方が時間を気にしなくていいから楽だけど。

主任はこの店によく来るのか、彼が暖簾をくぐると店長らしき人が嬉しそうに手を挙げた。
それに気付いた主任は、微笑んで会釈する。
こういう顔もするんだ。と、また新しい主任を見れて少し嬉しくなった。


賑やかで、相席なんじゃないかってくらい隣のテーブルが近くて、それでも周りのテーブルに置かれている料理は全部美味しそうで。
泣き疲れたからか、一気にお腹が減ってきた。




「遠慮せず好きなだけ頼めよ。ここの全部美味いから」


「では遠慮なく」



主任が「生で」と店員に告げる横で、私は初っ端から熱燗を頼むと主任が若干引いているのが見て取れた。



「可愛げがないな」


「何言ってるんですか、熱燗は身体にいいんですよ。主任こそビールばっか飲んでプリン体ばっか摂取してたら痛風になりますからね」


「うるせぇよ」




そう言いながらも少し楽しそうな主任を改めてじっくり見ると、小さな顔に整ったパーツは見惚れてしまうほど綺麗だ。
こんなに間近で、しかも向かい合って食事するなんて、緊張して何も喉を通らないかも。

なんて、心配したのは最初だけ。
気付けばお酒はぐいぐいすすみ、主任チョイスで運ばれてくる料理は全て絶品で、まともな食事が久しぶりだった私は貪るように口に運んだ。

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