恋の仕方、忘れました










「希子ちゃんいらっしゃい」


「あ、祐真(ゆうま)さんこんばんは」



夜の7時、仕事を終えた私はコンビニでビールを買ってから姉の住むアパートに足を運んだ。

インターホンを鳴らすと、出迎えてくれたのは姉の彼氏の祐真さんだった。

佑真さんが「どうぞ上がって」とドアを開けてくれたので、私は遠慮なく玄関へ入り靴を脱いだ。




「お邪魔します」


「あ、そうだ、希子ちゃんに残念なお知らせがあるんだけど」




スリッパを履き終えたところで突然何か思い出したように声を掛けてきた佑真さんに、私は小首を傾げた。




「莉子(りこ)がさ、なんか急な接待が入ったらしくて。日付が変わるまでには帰ってこれるとは言ってたんだけど」


「え、そうなんですか?!」




リビングに続く廊下を歩きながら残念そうに話す佑真さんの話を聞いて、私は肩を落とした。

莉子というのは四つ歳が離れた私の姉のことだ。




「まじかぁ...お姉ちゃんの手料理楽しみにしてたのに」


「莉子も希子ちゃんが好きな煮込みハンバーグ作るって張り切ってたんだよ」


「まぁ仕事じゃ仕方ないですよね」




祐真さんと会話をしながらリビングに入り、買ってきたお酒をテーブルに置く。ふとビニール袋越しに見えたビールが、いつも以上に美味しそうに見えた。


今日この時間をどれだけ楽しみにしていたことか。
そのためにクレーマーにも頑張って耐えたというのに…今日はとことんツイてない。

もう身も心もヘトヘトで、今すぐにでもこのビールを一気飲みしたいとこだけど───·····




「じゃあまた改めて遊びに来ますね。これ、よかったら飲んでください」




祐真さんにそう声をかけた私は、ペコリと頭を下げて再び玄関に向かった。







───だって、流石に祐真さんと二人きりで食事をするのは気が引けるから。


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