カラフル
 たー子は温かいコーヒーをご馳走してくれた後、「お腹減ってない?」と、俺の腹の心配までしてくれた。
「たー子?」
「んー?」
「俺のこと好きか?」
「……うん」
「え?」
 不意に頬が熱くなる。
「聞いといて『え?』ってなによ」
「あぁ、いや……」
 まさかそう来るとは思っていなかった。
「俺のどこが好き?」
 なんて、かなり恥ずかしいことを聞いてみる。
「一途なとこ」
「一途って……」
 俺は困惑した。
「うん。井上は一途だから、こっちを振り向くことなんてなくて……彼女しか見えてなかったもんね」
 たー子が寂しげに微笑む。
 何と返せばいいのかわからず、思わず口を噤んだ。
「でも、そんな井上が好きだったの。彼女になる人は幸せなんだろうなって……」
 我慢できるわけがない。
「ごめん。約束破った」
 俺はたー子を抱き寄せていた。
「もっと……ぎゅってしてほしい」
 可愛すぎんだろ。
 やべぇ。たー子が好きだ。
 俺はたー子を力一杯抱き締めた。

「井上?」
「んー?」
「この前はごめんね。痛かったでしょ? ほっぺた」
 腕の中のたー子が、眉を寄せて上目遣いで見上げる。
「いや……」
 俺はそれ以上なにも言わなかった。
 正直、俺は俺で、たー子に受け入れて貰えなかったことがショックで、実はかなりへこんでいた。勿論、いきなり押し倒した俺が悪いのはわかっているけど。
「本当はね、嫌だったわけじゃないの。子供じゃないし、イヴに一緒に過ごすって、やっぱりそういうことも覚悟するっていうか……」
 たー子は短く息を継いで続ける。
「でもね、ノリで、とか思われるのは絶対に嫌で、ちゃんと気持ち伝えたかったの。いつ言おうかって考えてた時に突然あんなふうになって、びっくりしちゃって。……ごめんね」
 たー子の瞳が少し潤んでいた。
「たー子?」
「ん?」
 ゆっくりと腕を解き、俺はポケットから取り出した小さな箱をたー子に手渡した。
「イヴに渡すつもりだったんだ」
 たー子の潤んだ瞳が揺れる。
「開けてみて」
「……うん」
 リボンを解くたー子の指が震えている。
「わぁ、綺麗~」
 たー子は瞳を輝かせ、それを指で摘まんで光にかざした。
 カラフルなストーンが揺れるピアスだ。
「井上ぇ……ありがとう」
 たー子の瞳からキラリと雫が零れ落ちた。
「こんな近くに、こんなにもいい女がいたのに、気付くのおせぇよな……ごめん」
 溜め息混じりに言ってから、俺はもう一度たー子を抱き寄せ、唇を重ねた。

 無彩色だった俺の部屋をカラフルに彩るものは、全てたー子の優しさだった。
 たー子は涙で濡らした頬を染めながら、キラキラの笑顔を俺に向けた。
 俺はその笑顔を独り占めしたくなった。
 ずっと俺だけに向けてほしいと思った。

 たー子はいつも、俺を幸せ色に染める。





【完】
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