カラフル
その日俺は定時に会社を出ると、たー子のアパートの部屋の前で、たー子の帰りを待った。
二人きりで話すにはこの方法しか思い付かなかったが、恋人でもない男にこんなところで待たれるのは迷惑だろうか。
しばらくすると階段を上ってくる足音が聞こえた。振り向くと、たー子が目を丸くして俺を見ていた。
「井上、何してんの?」
「あ、いや……別に」
「ふぅーん」
たー子はそう言うと俺から目を逸らし、鍵を開けて部屋へ入ろうとした。
「えっ!? おい、無視かよ!」
「だって別になにもないんでしょ?」
「いや、違うじゃん。用もねぇのに来ねぇよ」
「じゃあなに?」
いつになくたー子の態度は素っ気なく、冷たい視線を向けられた俺は、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「この前のことなんだけど……悪かった」
「……うん」
「それだけ言いたくて」
「そんなのメールでいいのに」
「ちゃんと顔見て謝りたかったんだ」
「そう」
感情のないまなざしを向けられ、思わず目を伏せた。
沈黙とたー子の冷たい視線に堪えきれず、俺は「じゃあな」と言って足早に階段へと向かった。
「井上!」
不意に呼び止められて振り返る。
「寒かったでしょ。温かいコーヒーでも飲んでいく?」
たー子は小さく笑った。
その瞬間、締め付けられていた胸が緩んで、嬉しさと安堵の感情で胸がいっぱいになった。
「でも、もし次おかしなことしたら、絶交だから」
「わかってる」
たー子がドアを開けると、中から漂ってきた甘い香りが俺の嗅覚を満たした。
たー子の香りだ。
部屋に入った俺は、違和感を覚えた。
いや、俺が勝手に、元気で明るいたー子のカラフルな部屋を想像していただけだ。
真っ白な壁にはセンスのいい大小のアートパネルが飾られていて、お洒落な海外インテリアを思わせるような、白を基調としたモノトーンでシンプルな部屋だった。
真っ白なテーブルの真ん中に置かれた煉瓦色の鉢植えだけが、やけに不釣り合いに思えた。
だが、それは俺がたー子にあげたサボテンだ。
二人きりで話すにはこの方法しか思い付かなかったが、恋人でもない男にこんなところで待たれるのは迷惑だろうか。
しばらくすると階段を上ってくる足音が聞こえた。振り向くと、たー子が目を丸くして俺を見ていた。
「井上、何してんの?」
「あ、いや……別に」
「ふぅーん」
たー子はそう言うと俺から目を逸らし、鍵を開けて部屋へ入ろうとした。
「えっ!? おい、無視かよ!」
「だって別になにもないんでしょ?」
「いや、違うじゃん。用もねぇのに来ねぇよ」
「じゃあなに?」
いつになくたー子の態度は素っ気なく、冷たい視線を向けられた俺は、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「この前のことなんだけど……悪かった」
「……うん」
「それだけ言いたくて」
「そんなのメールでいいのに」
「ちゃんと顔見て謝りたかったんだ」
「そう」
感情のないまなざしを向けられ、思わず目を伏せた。
沈黙とたー子の冷たい視線に堪えきれず、俺は「じゃあな」と言って足早に階段へと向かった。
「井上!」
不意に呼び止められて振り返る。
「寒かったでしょ。温かいコーヒーでも飲んでいく?」
たー子は小さく笑った。
その瞬間、締め付けられていた胸が緩んで、嬉しさと安堵の感情で胸がいっぱいになった。
「でも、もし次おかしなことしたら、絶交だから」
「わかってる」
たー子がドアを開けると、中から漂ってきた甘い香りが俺の嗅覚を満たした。
たー子の香りだ。
部屋に入った俺は、違和感を覚えた。
いや、俺が勝手に、元気で明るいたー子のカラフルな部屋を想像していただけだ。
真っ白な壁にはセンスのいい大小のアートパネルが飾られていて、お洒落な海外インテリアを思わせるような、白を基調としたモノトーンでシンプルな部屋だった。
真っ白なテーブルの真ん中に置かれた煉瓦色の鉢植えだけが、やけに不釣り合いに思えた。
だが、それは俺がたー子にあげたサボテンだ。