カラフル
 梅雨が明け、外は蝉が賑やかに鳴いている。
 土曜日の朝早くにインターホンが鳴った。
 たー子だ。
「部屋ん中で緑ばっか眺めてないで、遊びに行こうよ!」
「えぇーっ!? お前が俺に緑を勧めたんだろが!」
「ほら、行くよ!」
「え、どこに?」
「海だよ、海! バーベキューだよ! 下でみんな待ってるから」
 たー子に急かされ、俺は寝癖頭のまま家を出ると、外で車を停めて同期メンバー四人が手を振っていた。

 太陽が眩しい。海が綺麗だ。ビールが旨い!
「ぷはーッ、堪んねぇ!」
 既に三杯目のビールにもかかわらず、俺は一口目のように声を上げる。
「お前さぁ、たー子のことどう思ってんの?」
 日に焼けた逞しい腕をタンクトップから放り出し、イケメンの朝倉(あさくら)海里(かいり)が焼けた肉を俺の皿に乗せながら尋ねる。
「どうって?」
「たー子は、井上のこと好きだと思うんだけどな」
「たー子が? 俺のこと?」
 俺は海ではしゃぐたー子に目を遣った。
「今日も『海行こう』っていきなりたー子から電話あったんだけど、『井上が元気ないから』とか言ってさぁ……」
「へぇ、そうなんだ。まぁあいつ優しいからなぁ」
 俺は特に何も考えずに応えた。
「お前がなんとも思ってねぇなら、俺、たー子狙っちゃうけど?」
 朝倉が俺を探るように言った。
「お前、たー子のこと好きなんだ。……ふぅーん」
 俺は返事を濁した。

 俺もたー子のことは好きだ。
 すげぇ可愛い奴だと思う。
 でも、女として見たことは一度もなかった。
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