恋をしたのはお坊様
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」

やって来たのは、街に数件あるお花屋さんおひとつ。
老舗らしく品ぞろえにこだわっている店には色とりどりのお花が並んでいる。

「光福寺のお花を受け取りに来ました」
「ああぁ」

店番をしていた中年の女性と、たまたま店にいた客らしき男女。
3人が一斉に私を見る。

「あんたが光福寺に滞在しているっていう高山の孫娘かね?」
「え、ええ」
間違っていない以上頷くしかない。

「光福寺に滞在して、もう半月になるのんだろ?」
「ええ」
「東京の人って聞いたが、仕事はしていないのかね?」
「それは・・・」
さすがに若い娘が働きもせずに長期滞在していれば、不審に思うのかもしれない。

「高山さん所の家も随分荒れているって話だけれど、手入れはしないの?」
「さあ、そういうことは母でないと」
「荒れた家や土地があれば虫もわくし、動物や不審な人が入り込まないとも限らないから物騒なのよね」
「すみません」
実際母も家を出た人間だから、手が行き届いていないのは間違いないけれど、こんな風に言われないといけないことなのだろうか?

「お花の用意はできているけれど、このまま抱えて帰るつもりかい?」
「ええ」
そのつもりで来た。

「結構量があるし重いから、後で配達するよ」
「え、でも・・・」
それじゃあ私が来た意味がない。

「抱えて帰ることもできなくはないが、無理してお花が傷んでは元も子もないだろ?」
「それはそうですが・・・」

結局、店にいた人たちに説得され私はお花を配達してもらうことにした。
そして何も持たずに店を出る時、

「ったく、いい身分だよな」
聞こえてきた囁き。

この一言で、私の心はぽきんと折れてしまった。
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