恋をしたのはお坊様
田舎の暮らしは都会よりも人と人の距離が近くて、人情に溢れている。
困った人がいればすぐに誰かが手を差し伸べるし、見て見ぬふりなんてする人はいない。
しかし、その反面わずらわしさだってある。
都会での暮らし以上に周囲の目を気にしなくてはいけないし、噂話だって本人の耳に届いてしまうことが多い。

「やっぱり私は、どこに行ってもダメなのね」

会社の人間関係に行き詰まり逃げてきたこの土地で、今また人と人とのしがらみに負けそうになっている自分。
ここまでくると私自身に何か問題があるのではないかと思ってしまう。

「あぁー、いなくなりたい」
この世から消えてしまえば、こんなに悩むこともなくなるのに。

「ほらあの人、光福寺の・・・」
たまたますれ違った買い物中らしい女性たちから聞こえてきた言葉。

私は反射的に角を曲がり、小さな路地に入ってしまった。


別に、どこへ行くつもりもない。
しいて言うならば光福寺へ戻ろうと思っていた。
しかし、向こうから歩いてくる人影を見るたびに角を曲がり、人を避けるように歩いているうち、気が付けば裏山の入口まで来ていた。

「疲れたな、少しだけ休憩していこう」

裏山を少し入ったところにある休憩所まで行き、私は腰を下ろした。
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