恋をしたのはお坊様
「兄が突然亡くなって自分しかこの寺を継ぐ人間がいないとなった時、実家に帰って寺を継ぐことに迷いはなかった。生きている自分よりも亡くなった兄の方が無念だろうと思えたからね」
「確かにそうだけれど・・・」
それでも、夢をあきらめることはきっと無念だったはず。

「僧侶になると決めてからの修行期間やこっちに帰ってからの生活でも、不満や不自由を感じたことはない。すべては与えられたものと思えば悔しさもよくもなくなってしまったんだ」
「すごいわね」
私にはそんな崇高な精神はない。
「でもね、晴日さんだけは失いたくない」
「へ?」
突然話が自分のことになって変な声が出た。

抱きしめられたままの状態だから隆寛さんの顔は見えないけれど、私は少しだけ顔をあげてみた。

「どうしたの?」
それ以外たずねる言葉か見つからない。

「もしこの先の予定がないのなら、ここに残ってくれないか?」
「ここにって・・・」

それはこのまま岡山に住めって意味かしら?
これって、もしかして告白?
もしそうなら・・・

「僕の側にいてくれないか?」
「・・・隆寛さん」

伝わってくる温もりと共に込み上げる思いがあって、目の前の景色が揺れた。
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