恋をしたのはお坊様
「っんん」
隆寛さんの唇が私から離れる瞬間、無意識に声が出てしまった。

私達は多くを語ることもなくただ抱きしめあって、そしてキスを交わした。
私の頬を流れ落ちた涙はすでに乾き、その跡を隆寛さんがそっとなでる。
大きな山をいくつも持っているという光福寺の手入れのために力仕事もこなす隆寛さんはゴツゴツとした指をしていて、その感触が少しだけくすっぐたくて私は笑顔になった。

「無理を言うつもりは無いんだ。ここの暮らしは都会と違って煩わしさもあるからね。でも、どんなことがあっても晴日さんは僕が守る。だから、僕を信じてくれないか?」

隆寛さんが守ると言えば、どんなことをしても守ってくれる気がする。
私自身、すでに隆寛さんと離れがたい気持ちもある。
でもなあ・・・正直、私は隆寛さんに助けられるだけで何もしてあげられない。

「じゃあどうだろう、一度ここに暮らしてみないか?」
「それは・・・」

私にはどうせ行く当てもない。
会社は辞めてしまったし、マンションも引き払った。
しばらく実家に帰ろうかと思っていたけれど、ここで仕事が見つかるならそれでもいい。
普段から無信仰で運命なんて信じてはいないけれど、この時だけは隆寛さんを信じてみよう思えた。
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