恋をしたのはお坊様
お母様にお弁当まで作ってもらい向かった町の保育園は、町の中心から少し離れた自然豊かな場所にあった。
広い敷地の中に老人施設や学童園と共に保育園があり、大きな建物がいくつも並んでいる。

「晴日先生って呼んでもいいかしら?」
「はい。お願いします」

案内してくださった主任保育士の先生は40歳くらいのかわいらしい女性。
都会からお嫁に来てからずっとここに勤めているらしい。

「私もね、初めはすごく田舎で嫌だったの。私が嫁いだころにはコンビニもほとんどなかったし。でも、気が付けば親元で過ごした時間よりここでの暮らしが長くなってしまったわ」

懐かしそうに微笑む主任先生が、とても幸せそうに見えた。
まだ先のことはわからないけれど、私もこんな風に笑える日が来るのだろうか?
もしそうだったらいいな。

「さあ、今日は理事長先生がいらっしゃるから晴日さんも行きましょう」
ニコニコと笑顔のまま、主任先生は建物の奥へと向かって行く。

理事長先生ってことは、ここで一番偉い人よね。
面接の時も主任先生だけだったから、初めて会うのだけれど・・・

「理事長先生ってどんな方ですか?」
今更聞いても仕方がないと思いながら、前の職場での人間関係のしがらみから逃げ出してきた私は気になった。

「若いけれどとっても仕事のできるいい方だから、大丈夫よ」
「そう、ですか」
ちょっと不安ではあるけれど、ここに勤めると決めた以上は頑張るしかない。

トントン。
「失礼します」
「はい、どうぞ」

主任先生が理事長室へと入って行き、私もその後に続いた。
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