紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
「まいったな、まったく」
 気まずそうに玲哉さんが鼻の頭をかいている。
「俺に交際相手がいると思ってたのか?」
 私はコクリとうなずいた。
「いたらよっぽど物好きな女だろ」
 ――いますよ、ここに。
 世間知らずでだまされやすい物好きな女。
「皿洗ってるから、寝室で着替えてくるといい」
「え、あ、ごちそうになったんで私がやりますよ」
「余計な気をつかわなくていい。せっかく服が届いたんだから、着替えればいいさ」
 そう言いながら、もう玲哉さんは洗い物を始めていた。
「じゃあ、すみません」
 私は高梨さんが持ってきてくれた紙袋を抱えて寝室へ向かった。
 中にはカジュアルなポロシャツとキュロットスカートが入っていた。
 新品の下着をパッケージから取り出して身につけ、ちょっと生地の硬いライムグリーンのポロシャツをかぶる。
 ベージュのキュロットスカートは膝丈で、今の自分に似合うかちょっと不安。
 どうなんだろ。
 ちょっと色合いが微妙な感じがするけど、贅沢を言ったら朝早くに届けてくれた高梨さんに失礼だよね。
 覚悟を決めてキッチンへ行くと、玲哉さんが洗い物の手を止めて私を見た。
「いいんじゃないか。似合うと思うぞ」
「そうですか」
「なんだ、さえない声だな」
「ふだん、あんまりこういう格好しないので」
「そうか、新鮮でいいじゃないか」
 そうかなあ。
 やっぱりなんかしっくりこないな。
 洗濯物が乾くまでしょうがないか。
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