サイコな機長の偏愛生活

複数の有名ブランドのドレスカタログを手にする彩葉。
その表情は予想通り、少し複雑な色を滲ませていた。

「結婚するの、嫌か?」
「え?あ、いえっ!……綺麗に着こなせる年齢はとうに過ぎたなぁと思って」
「………え」
「一カ月前くらい前から時間見つけてエステ通い頑張りますねっ!」
「……フフッ」
「あっ、何で笑うんですかっ?!失礼しちゃうなぁ~」
「いや……、てっきり式に後ろ向きなのかと思ってたから」
「えっ?何でですか?……私、そんな嫌そうな顔してました?」
「ん」
「えぇ~~っ!!」

コロコロと表情を変える彼女を見つめ、笑みが零れる。
俺の杞憂だったらしい。

俺の顔を心配そうに見つめ、『そんなことないですからね?』と訴えているようで。
それが、俺の不安を一蹴した。

「仕事に行かないと」
「……はい」

今度はちゃんと汲み取れた。
『行きたくない』と言葉にしなくても、漏れ出した溜息で。

彼女の腰を抱き寄せる手が離れがたい。
けれど、これ以上はゆっくりしていられない。

視線の先に捉えた時計の針が十一時十五分を指している。

「また今夜に」

名残惜しむように彼女の額にキスをする。
背中に回されている手にぎゅっと力が込められた。

今はこれだけで十分。
ちゃんと心が通じ合っているという安心感を感じられたから。

見送る彼女を玄関に残し、自宅を後にした。

**

出社後に決済書類を処理して、その後に更衣室で制服に着替える。

十四時三十分発の羽田発 長崎行にフライト予定の俺は、十三時十五分に副操縦士とブリーフィングを行う為に事務所へと向かった。

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