サイコな機長の偏愛生活



「Aランチをお願いします」
「俺もAランチで」

スタッフ専用の食堂でランチ休憩。

必ず一緒に食べないといけない理由は無い。
けれど、いつコールされるか分からないのと、休憩中も仕事の段取りを組むこともあるから、必然的に一緒にランチせざるを得ない状況。

「はい、Aランチ二つ」
「ありがとうございます」
「うぉ~っ、めっちゃ旨そう!」

空いている四人掛けのテーブルに着く。

「いただきます」
「いただきまぁ~すっ!」

Aランチのキチン南蛮定食を食べ始める。
うちの大学病院の社食は、かなり美味しい。
院内食ということもあって、栄養バランスは勿論のこと、そこら辺の定食屋さんより遥かに美味しい。

「この鶏肉、物凄い柔らかい。何したらこんなに柔らかくなるんだろう?」
「……意外です」
「え?……何が?」
「家で料理してる姿、想像できないんで」
「失礼ね。これでも、葛城先輩の奥さんと料理教室に通ってるんだから」
「へぇ~。花嫁修業ってやつですか」
「……悪い?」
「別に。悪いなんて言ってないじゃないですか」

嘲笑するような視線をチラッと寄こした彼は、黙々と料理を口にする。

確かに彼が言うように、以前の私は、五分でさえキッチンには立たなかった。
けれど、『作りたい』『作ってあげたい』と思える人が出来たのだから、当然だ。

初めての恋愛でもないのに、『作ってあげたい』だなんて感情を抱いたのは初めてで。
寝る間も惜しんで教室に通ってでも、身に付けたいと思えるのだから重症だ。

「俺も、……作って貰えたらなぁ」

手元のサラダから視線を持ち上げると、彼の視線は窓の外に向けられていた。

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