サイコな機長の偏愛生活

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「失礼致します」
「久しぶりだね、環先生」
「ご無沙汰しております」

勤務する白星会医科大学病院で外科統括部長をしていた彼は、現在の病院長である久我 仙一(せんいち)(六十三歳)。
元々胸部外科医として活躍していて、胸部外科界での知名度も高い。
去年院長が退任したこともあり、息子である彼が院長に就任した。

「失礼します」

ソファーに促され、緊張した面持ちで腰を下ろす。
すると、珈琲の入ったカップが目の前に置かれた。

「環先生、どうぞ」
「……戴きます」

緊張で震える手でソーサーを取り、膝の上に置く。
そして、そこからカップを持ち上げて……。

「緊張しているようだから、本題に入ろうか」
「……お願いします」

今にも口から飛び出そうなほど暴れ狂った鼓動。
カタカタと音が鳴り、震えが止まらない指先。
スクラブの上に白衣を身に纏っているのに、さっきから背筋が凍りそうなほど肌が粟立ってる。

手術とは全くの別物の緊張感だ。

「ここ数年の君の勤務ぶりは本当に素晴らしい。旧友達がこぞって君の書いた論文を褒めててね」
「……??」
「先月の国際学会での発表も、本来は金谷君(胸部外科部長)が出席することになってたそうじゃないか」
「……はい」
「準備が不十分なのにもかかわらず、見事な発表だったと学会からも報告を受けている」
「……とんでもありません」

院長の言わんとすることが全く分からず、思わず生唾を飲み込んだ、次の瞬間。

「そんな君を、今年の准教授に選任しようと思うのだが?」
「………はい?」
「まだ正式な発表ではないが、理事の賛同も得ている。……環先生、おめでとう」
「……ぅっ……っ」

目の前に院長の右手が差し出された。
思いがけない言葉に、涙が溢れ出した。

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