サイコな機長の偏愛生活

本館の中央採血室で採血し、総合会計で支払いを済ませる。
そして、その足で胸部外科がある階へとエレベーターで上がる。

彩葉の定時は十八時。
けれど、定時で上がれることはほぼない。
早くて十八時半過ぎ。
だから、この時間に迎えに行けば、緊急オペで執刀してなければ逢えるはず。

たった一言。
『もう帰るから』そう伝えたくて。
そうすれば、彼女のことだから早めにキリを付けて上がるはず。

四階に降り立った財前はナースステーションへと向かう。

「こんばんは」
「…あっ、彩葉先生の(彼氏さんっ!)」
「お忙しい所、申し訳ありません。彼女はまだいますか?」
「あ、はいっ、まだいると思いますけど……。少々お待ちを」

『看護師 中村すみれ』と書かれた名札をした看護師が内線してくれる。

「あ、もしもし?中村ですけど、彩葉先生いらっしゃいますか?……はい、……あ、そうなんですね、分かりました」

受話器を置いた彼女はメモし、それを差し出して来た。

「本館二階の生理機能検査室というのがありまして、その中に筋電図室があるんですけど、そこにいるみたいなんです」
「自分が行っても大丈夫でしょうか?」
「あ、はい。検査してるんではなくて、筋電図の読み方を指導してるみたいなので、受付に声掛けて貰えれば」
「……分かりました。お手数お掛けしました」

財前は会釈し踵を返した、その時。

「あのっ!」
「……はい?」
「ケーキ、ご馳走様でした」
「あ、…いえ」

再び会釈し、その場を後にした。
二階にある生理機能検査室へと。

外来時間外ということもあり、すれ違う人は少ないが、全くいないわけではない。
医療従事者と思われる人とすれ違いながら、『指導してる』というワードに無意識に感情を掻き乱されていた。

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