サイコな機長の偏愛生活
6 不安にさせたら、全身全霊で愛を注ぐべし

「彩葉先生、彼氏さんに会えましたか?」
「え?……彼、来たの?」
「あ、はい、先程」
「会わなかったけど」
「そうなんですか?」

元宮くんとナースステーションに戻り、明日の手術予定を確認する。

郁さんが来た?
スマホを確認しても何も連絡は入っていない。

「中村さん、彼、何か言ってた?」
「いえ、特には」
「……そう」

スマホをポケットに戻して、手術詳細を確認していた、その時。

「生理機能検査室、分かり辛い所にあるから、迷子にでもなったんですかね?」
「えっ、筋電図室にいるって教えたの?」
「あ、はい。メモして渡したんですけど……」
「何分くらい前?」
「十五分くらい前ですかね?」
「………あ」

もしかして、元宮くんと一緒にいたところを見られて、気分悪くさせた?

まさか、その後のことは……。
まさかね、……うん、まさか……。

「元宮くん、ごめんっ、先上がるね」
「あ、はい。お疲れ様でした」
「彩葉先生、お疲れさまでした~」

ナースステーションを飛び出して、更衣室へと走りながら、スマホで彼に電話をかける。

『お客様のお掛けになった電話番号は……――…』

ダメだ、繋がらない。
急な仕事が入ったのかも。
秘書の酒井さんにかけてみる。

「こんばんは、夜分にすみません」
「こんばんは、……どうされました?」
「郁さん、今日は何時に上がりましたか?」
「今日ですか?十七時ですが、……それが、何か?」
「定期検診の日でしたか?」
「はい」
「やっぱり……」
「財前と何かあったんですか?」
「……いえ、遅くにすみませんでした。失礼します」
「あ、はい」

電話を切って、嫌な予感がした。

今朝、彼に言おうかずっと悩んだけど、結局言えなかった事がある。
それが今になって『後悔』という錘で襲い掛かって来る。

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