サイコな機長の偏愛生活

「郁さっ……」

急いで帰宅したけれど、そこに彼はいなかった。
ドアを開けたまま呆然と立ち尽くす。

帰宅していたら、煌々と明かりをつけておいてくれる人だもの。
靴もないし、室内が暗い。

タクシーで帰宅する車内で何度もメッセージを送ったけれど、既読にもならない。

心配させると分かっていても何もせずにはいられず、ご実家に電話をかけてみたが、そこにも彼はいなかった。

その夜、彼は帰って来なかった。
既読にもならず、連絡を絶ったまま。


翌日、早めに出勤して、定時で上がれるように仕事に専念した。

一日中確認しているのに、一向に既読にもならず、返信も無ければ電話も無い。

「彩葉先生、顔色悪いですよ?大丈夫ですか?」
「……うん、ありがとう」

診療記録を入力していて、軽い吐き気がして来た。
昨夜から何も食べていなくて、恐らく低血糖に陥っている。

「ちょっと、休憩して来るね」
「あ、はい」

談話室にある自動販売機でココアを買って、糖を無理やり摂取する。
医師が倒れたら洒落にならない。

「どうした、悩み事でもあんのか?」
「……先輩」
「朝から様子がおかしかったから。……喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩にもならずに、別れが待っていそうで怖いです」
「は?……別れって、一体何があったんだよ」

私を追いかけて談話室に来てくれた先輩。
談話室だと患者さんもいるからと、場所を変える事にした。

手術の説明をする為の相談室に籠り、ここ数日の事を洗いざらい話した。

「お前、馬鹿なの?」
「……大馬鹿者ですよね」
「人がいいのも大概にしろよ」

葛城先輩は呆れ返って、少し怒り気味。
けれど、返す言葉も言い訳する気力も無い。

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