サイコな機長の偏愛生活

先輩の計らいもあって、ほぼ定時で上がることが出来た。

更衣室で私服に着替えながら、何度も彼に電話をかけてみるが繋がらない。
完全に拒絶されてしまっているらしい。

メッセージも送り続けているけれど、一向に返信もない。

嫌な記憶が蘇る。

三年ほど前にも同じようなことがあった。
あの時は眼病が進行して、私から仕事にウエイトを切り替えるために会う時間を削っていたように思う。

もしかすると、私に『別れる踏ん切りをつけるための時間』だったのかもしれないけれど、結果的に彼の行動は間違ってなかったように思う。
私の性格上、ある日突然……では、ショックが大きすぎるから。

前の彼氏と別れる際も、一年くらいかけて自分に踏ん切りをつけたくらいだ。
その事も知ってる彼だからこそ、段階を踏んでくれたのだと思うから。


だから、今のこの状況は極めて危険だということだ。
彼が、再び『別れるための時間』をつくり始めてしまったのではないか?という最大の不安に駆られる。



職場を後にした私は急いで帰宅した。

玄関は暗いままだし、彼の靴もない。
まだ仕事なのか。
それとも、帰宅したくないのか。

重い足取りでリビングへと進むと、一枚の紙が視界に入った。

――――――――――

彩葉へ

連絡を無視してすまない

少し、考える時間が欲しい

気持ちの整理がついたら、連絡します

あまり無理せず、しっかり休んで

           郁

――――――――――

やっぱり、講堂前でのやり取りを見たのだと確信した。
それには一切触れてない。
だからこそ、そうなのだと分かる。

彼は、そういう人だから。

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