サイコな機長の偏愛生活

「彩葉さ、相手の立場踏まえて、相手の気持ち考えた事あるか?」
「えっ?……立場を踏まえて……ですか」
「決して若くないしさ。それに立場上、恋人にするのも妻にするのも、選び放題だろ」
「………そうですね」
「遊びならまだしも、真剣に付き合う相手に選ぶなら、もっと楽な相手が腐るほどいる」
「っ……」
「会う時間も取れない上、家事も苦手で」
「うぅっ……」
「結婚後もフルで仕事を続ける前提で受け入れてくれる御曹司がいると思うか?」
「………」
「機長ってだけでも、養うには十分だし」
「………」
「責任がある上、不規則な夫の仕事を全面的にサポートするのが、一般的だぞ」
「……はい」
「まぁ、今のご時世はだいぶ緩和されたにせよ、後継者としての立場上、終わりのない責任が付き纏うだろうし」
「………」
「そんな彼が彩葉の仕事に関して、一切口を出さずに受け入れて、ずっと見守ってくれてる有り難さに気付いてるか?」
「………」
「俺が彼の立場なら、一、二年が限界だろうな。これがずっと続くとなると、少なからずしわ寄せがどこかしらに蓄積すると思う」
「……そうですね」

先輩の言葉はいつもダイレクトに伝わる。
飾り気のない言葉だからこそ、ストレートに心に響く。
だからこそ、自分の至らなさに気付くことが出来るんだ。

「これだけは言っておくな?」
「……はい」
「失明も覚悟で手術したのは自身のためかもしれないけど、お前の元に帰って来てくれたことを忘れたわけじゃないだろ。あの時点でもっと楽な人生を選択することだって出来たってことを忘れるな」
「っ……、はいっ」
「後は自分で考えろ」

先輩は缶珈琲を購入して、ナースステーションへと戻って行った。

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