日ごと、君におちて行く。日ごと、あなたに染められる。



 私の部屋に連れて来た。ようやく二人きりになれる。

「耕一さん、今日は、本当にお疲れ様でした」

心の底からねぎらいの気持ちと申し訳なさを言葉に載せる。

「大丈夫だよ。日頃から酒の席の付き合いは多いし。たいていその時の相手は、年配の人だ。こういう場には慣れている。それに、仕事よりよっぽど大切な会合だろ?」

そう言って、耕一さんが私に一歩近づく。

「君の親族だからね。僕のことを心から気に入ってもらわないと。頑張るのは当然のことだ」
「耕一さんは、もう、十分気に入られてますよ」

私の家族のことまで大切に考えてくれる耕一さんに、密かに感動する。

「あの人たち、遠慮ないしデリカシーないし。気分を害したっておかしくない……」

桐谷家と私の親族との違いを、少し恥ずかしいとも感じてしまう。俯く私の頭を耕一さんが優しく撫でた。

「そんな心配してたのか? だから、大丈夫だって言ってるだろう? みなさん僕を受け入れようとしてくれてるんだから」
「でも……」
「そんなに気になるなら、頑張ったご褒美をくれないかな」
「ご、ご褒美……?」

耕一さんの目が突然怪しく光る。

「もちろん、君の実家で事を起こそうとは思ってないよ。でも、キスくらいならいいだろ?」
「えっ」

逃がさないとばかりに、目をまん丸くする私の両肩を耕一さんが掴む。

「――君から、して」
「え?!」

さらに驚くと、耕一さんが肩を掴む手に力を込めた。

「君からしてくれないと、ご褒美にならないだろ」
「う……っ」
「ん? できないってことは、僕の頑張りはまだまだ足りないと君は思ってるってこと?」
「違います! 耕一さんは本当に頑張ってくれていました!」
「じゃあ、出来るね」

こういう時の耕一さんは、本当に意地悪だ。

「分かりました」

つま先立ちをして、すばやく唇を掠めるように触れた。

「はい。しました!」
「不合格」
「どうしてですか!」

私が抗議すると、「キスっていうのはこういう風にするんだ」と言って腰を引き寄せ唇を重ねて来た。

「ん――!!」

私がその胸をトントンと叩くと、ようやく唇を離してくれる。

「分かった?」

また、そんな風に魅惑的な笑みを浮かべて。

「――ああ、ダメだ。こんなキスしたらそれ以上したくなった」
「勝手にしておいて何を言ってるんですか! ダメですからね」
「君が声を抑えればいいんじゃない?」
「ダメです。絶対、ダメ!」
「分かってるって」

耕一さんが私をぎゅっと抱きしめる。抱き締めながら、囁く。

「――でもさ。こんな風に家族が集まるところを見ると、つい、想像した」
「想像?」

耕一さんの胸に抱かれながら、問い掛けた。

「そう。僕たちもいつか親になって歳をとった時。自分たちの子どもが帰省してきたりするのかなって」
「私と耕一さんの子ども……」

妄想癖のくにせ、想像したことがなかった。


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