すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
「や、やばい! 寝過ごしちゃった! しかも昨日、帰ってきたままで寝ちゃってるし!」
急いでシャワーを浴び、身支度をして家を出る。駅までは五分。会社までは電車で十五分か。
(ギリギリ間に合わないかも。今日はスニーカーだから、近道して行こう!)
数分の遅れで電車に乗れなかったら遅刻してしまう。私はいつもは通らない裏道に入って行った。その時だった。
誰もいない民家と民家の隙間のような路地の景色が、ぐにゃりと曲がり始める。
「え? これって……」
足元には見覚えのある、光る魔法陣。その光景に私は迷わず立ち止まり、次の展開を待った。
(もしかして、カイルに会えるの? オズマンド国に戻れる?)
心臓の音が激しくなり、口の中がカラカラだ。やがてその魔法陣の光は、私の全身を包み始めた。
(前と一緒だ! 嬉しい! やっとカイルに会えるんだわ!)
そして私の視界はすべて真っ白になり、ガクンと力が抜けた。次の瞬間、私の体は一瞬宙に浮き、そしてすぐに地面に叩きつけられる。
(あれ? おかしいな。前は瞬間移動みたいな感じだったのに)
「きゃああ!」
「誰だこの女は!」
なんだかものすごく騒がしい。ここは教会じゃないのだろうか? するとあっという間に私のまわりに人が集まり、後ろ手に縛られてしまった。