すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜


 思い当たることはひとつ。きっと先日アンジェラ王女を教会から連れ出そうとした時に引っかかれたのだ。すぐに殿下も原因に思い当たったらしく、はあ……と特大のため息を吐いた。


「愚妹が本当にすまない」
「いいえ。簡単に傷をつけられる私のほうが未熟なだけです」


 とはいえ、かなり深く爪で傷つけられたみたいだ。痛みは小さいが膿んでしまったのかもしれない。俺は乱れた服を整えると殿下のほうに向き合った。


「それでは私はこれからカイル団長のもとに合流いたします!」
「ああ、カイルに結婚前だから、少しは自重しろと言っておいてくれ」


 ニヤリと笑う殿下に一礼し、俺は執務室を後にする。


(すぐに聖教会に行って団長に合流だ。聖女様の護衛をしなくては……)


 殿下は仕事が早い。きっと今日の午後にはアンジェラ殿下が隣国サエラの王族と結婚する知らせが国中に届くだろう。


 しかしそうなった時に心配なのは、自暴自棄になったアンジェラ王女とエリックの行動だ。もちろんそれは殿下も予想ずみで対策をしているだろうが、俺も気をつけるに越したことはない。


「つぅ……っ!」


(変だな。妙に傷が痛む)


 俺はチリっと痛む腕の傷に不吉な予感を感じ、足早に聖教会へと向かった。
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