すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜


「正直私も緊張しましたが、ジャレド氏に徹底的にしごかれましたから。……そういえば彼は最近どこにいるのでしょうか? 一年前くらいから見かけませんが」


(え? 師匠ったら、一年前からいないの?)


 するとカイルのその問いかけに、司教様の顔が一気に曇る。


「お恥ずかしながら、あやつは一年前に旅の踊り子を追いかけて、隣国に行ってしまったのです。まったく! そろそろ聖女様の召喚に成功するはずですから、戻ってきてほしいのですが……」


 その言葉にドキッと胸が跳ねた。今たしかに聖女様の召喚って言った。もしかして誰か別の聖女を召喚するつもりなんだろうか。


「まあ、あやつのことはいいです。さあ、お二人ともお昼をいただきましょう」
「ありがとうございます」


 司教様がやや苦笑しながら、ドアを開けてくれた。私もカイルを追いかけるようについて行く。


 それにしても師匠は相変わらずのようだ。会えないのは淋しいけど女性を追いかけていったとわかると、謎の安心感がある。


(そういえば、私が最後の旅に出る前に、未亡人の踊り子さんについて熱く語ってたっけ。あの女性について隣の国まで行くなんて。いつもはグータラなくせに恋愛ごとには凄い行動力だ)


 きっとその女性との恋が終わっても、隣国でまた別の恋をしているのだろう。そんな師匠を思い浮かべてニヤニヤしていると、突然私とカイルの間にふわりと金色の粒が見えだした。
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